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最高裁判所第一小法廷 昭和33年(オ)775号 判決 1960年5月19日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士河野完の上告理由第一点、第二点について。

原判決が、本件契約においては当事者間に単に被控訴人(被上告人、原告)より控訴人(上告会社、被告会社)に対し控訴人が被控訴人を雇傭している期間内に限り、本件家屋を被控訴人が前記鉄道弘済会に支払うべき賃料と同額の一ケ月金三千円の賃料をもつて転貸し、又電話および什器を無償で使用させる旨約定したものである旨の事実を認定の上、被控訴人が控訴人より解雇されたことにより、本件当事者間の本件家屋の転貸借、電話および物件の使用貸借はすべて終了したわけであるとの理由で被控訴人の本訴請求全部を認容したことは、所論のとおりである。そして、原判決認定の控訴人が被控訴人を雇傭している期間内に限り転貸および無償使用させる約定であるとの趣旨は、被控訴人主張のごとく雇傭と転借、使用とは互に条件となり不可分関係に立つもので、一方が消滅すれば他方もまた消滅する趣旨すなわち解除条件附の趣旨を判示したものと解すべきものであることは、その判文全体に照し明らかである。そして、被控訴人を解雇すべきか否かは、債務者たる控訴人の意思のみにかかつており、停止条件附法律行為の場合とは異り、これを無効と解すべき理由はなく、従つて、本件転貸借のように控訴人たる転借人のみの意思にかかる解雇を条件としても借家法六条にいわゆる賃借人に不利益なものとはいえないと解するを相当とする。されば、原判決には、所論第一点のような違法は認め難く、同論旨は採るを得ない。

また、前述のごとく本件は、解除条件の成就による転貸借の終了を認定したものであつて、所論第二点のような解約申入を認めたものではない。されば、論旨第二点の所論は、原判示に副わない独自の見解であつて採ることができない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 高木常七)

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